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【レビュー】悪意の競り合い!Gremlins, Inc.は秀逸なデジタルボードゲーム

銃弾飛び交う戦場でギリギリのAIMを競い合うFPSや、フレーム単位でしのぎを削る格ゲーに疲れたらゆったりとボードゲームはいかがだろうか。このGremlins, Inc.ならば、悪意飛び交うボード上で様々なリソースと勝ち筋を奪い合いしのぎを削り、さらに疲れること受けあいだ。

 

全てがままならないジレンマよ

 

本作は各プレイヤーが6枚の手札を持ち、それらを移動のため、あるいは対応したマスでカードの恩恵を得るために消費してボードをグルグルと回り勝利点を稼いでいく。

主に管理するリソースは金、得票、勝利点の3種類だ。金は一番稼ぎやすいが、カードやマスの能力の使用など、支払う場面も多く、また他プレイヤーからの妨害で失いやすい。

得票は一定ターン毎に行われる選挙時に一番多く所持していると、他のプレイヤーがマスに支払った賄賂を回収するなど強力な権限を持った「市長」となれる。

カードの起動に支払う場合もある。金と比べて奪われにくいため、こちらのカードは長期的な計画を考える上で心強い手札となる。

歯車のアイコンは勝利点であり、ルールによるが一定以上を貯めるとゲームが終了したりする。言うまでもなく一番重要なリソースである。いくらか奪ったり失わせたりするカードがあったり、市場で能動的に支払うこともできるため、これもまた結構変動する。

市場で1つを金200で売ることが出来るが、金200で起動できるカードは大抵2個以上の歯車をもたらすため、勝利点をあえて売るという行動は重要だ。もっとも、金というもっとも触りやすいリソースに変換するリスクも考えなくてはならない。

 

このゲームの手札は6枚だが、移動+マスでのカード起動などの動きをすると1手番で2枚以上消費していくこととなる。つまり、手札の3分の1,あるいは半分以上が目まぐるしく入れ替わる。6枚の手札から長期的な戦術を立てることは非常に難しい。

他のプレイヤーに触る手段が豊富に用意されている点もまた、計画をややこしくしていく。

カード使用のために用意していた金を奪われてしまったり、ゲームエンドに持って行くはずだったのに勝利点を奪われたりと、とにかく様々な数値が変動していく。

さらに、相手のコマがいる場所にあとから入ると、お互いに金を支払って支払額が少ないプレイヤーが刑務所にぶち込まれるなんてシステムもある。

刑務所は特殊なマスで、プラスの要素として使えないことも無いが、盤面を移動してアドバンテージを稼いでいくこのゲームで特定マスに監禁されてしまうため、やはりこの勝負システムは脅威と言える。

近作のボードゲームは他者への干渉要素が少なく、自身の盤面を育てるタイプのゲームが好評を博していることを考えると、このゲームは若干珍しいストロングスタイルなゲーム内容となっている。

 

とにかくトラブルと解決とジレンマのひたすらな繰り返しだ。順風満帆に進んでいる時間はプレイ時間のあいだ僅かであろう。

しかし、筆者はボードゲームにおいて一番楽しい時間は考えを巡らしている時間だと感じている。

盤面を睨み、手札について考え、起こりうる困難への次善の策を考える、あるいは最後の策に祈りを捧げる。そして、それらの考えを超える攻撃を受けてさらなる計画の練り直しを強いられる。考えることが増えれば増えるほど、ゲームに没頭する感覚を得られる。

この時間はとてもスリリングで、興味深く、取り組みがいのあるゲームだ。

 

ゲーム終了条件は複数あり、時間制で終了となるもの、誰かが一定の勝利点を貯めた時点でゲーム終了し勝利となるものとあるが、筆者は断然勝利点でゲームが終了するルールを勧めたい。

このルールの素晴らしいところは、プレイヤー達がゲームの終了を左右できることだ。

つまり、拙速を良しとして勝利点を小刻みに溜め込んで真っ先に終わらせにいくも良し、大きく勝利点を得られるカードを抱えて、マークされていないところから一気にまくるも良しといった具合だ。

このゲームでは手札以外のリソースは公開されているから、潜伏しているつもりでも金や得票を抱え込めばそれはそれで警戒されていくだろう。

ゲーム終了条件を誰が満たすかという読み合いがゲームに追加され、さらなる面白さとなっていくので是非ともオススメである。

 

キャラごとに変わる戦略、豊富な勝ち筋

 

各プレイヤーが担当するグレムリンは、政治家や貧乏人、盗っ人など多くの種類があり、それぞれ全く別の能力を持っている。

キャラクターごとに金を稼ぎやすい能力や、得票を稼ぎやすい能力、妨害を躱しやすかったりと大きくプレイフィールが変わっていくのだ。

それゆえに、操作キャラクターを変えると戦略も大きく変化していく。せっかくある能力を活かすことができなければ勝利は難しいだろう。

しかし、ここでもまた前述のジレンマが顔を出す。能力はあくまで補助的な物に過ぎず、結局の所手元に来るカードの通りにしか動くことが出来ないのだ。

能力にこだわるあまりカードの引きを強引に無視するようなプレイングもまた良い結果は出ないだろう。

出来ること、そして直近でしていくことのバランスを取って考えていくのもまた醍醐味なのだ。

同じキャラクターを使っていても、能力と手札が見事に噛み合ったゲームとそうならなかったゲームでは戦略が大きく変わってくる。ここもまた、楽しいながらもままならない部分だ。

 

運否天賦!ただし投げられる賽を増やすことは出来る!

ここまで語ってきた通り、このゲームはとにかくプレイヤーがコントロールできない部分が多く、運に任せる局面が多く発生する。

厳格なアブストラクトなどを好むプレイヤーには不評を買うかも知れない。

しかし、麻雀で連勝は難しくても連敗を防ぐことができるように、このゲームでも不運の影響を抑えていくプレイングというのは可能だ。

例えば、手札は通常消費できる枚数は移動時の1枚だが、移動先のマスで移動後に使用することが出来れば消費は2枚となる。それだけ手札を回転させ、状況に合ったカードを獲得できる確率が上げられるということだ。

運否天賦の部分はどうしたって祈るしか無いが、運の試行回数を増やすなり、下に振れた時のリカバーを用意するなりと戦略でカバーしていく。その攻防の中で、希望が薄れたときに起死回生の手札が、あるいは回したルーレットがいい目を出したら、その時がこのゲームにハマる第一歩となるだろう。

 

デジタルとはいえボードゲームであるため、CPU戦も搭載されているが対人戦をやるのが断然面白い。オンラインマッチングで野良試合をすることもできるし、今なら8月17日まで500円ほどで購入できる。仲間内で買ってオンラインボードゲーム大会もコロナ禍の時間の使い方として良いのではないだろうか。

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