【レビュー】ラリーのための世界で、ただひたすらにラリーを。カジュアルと拘りの交差点 art of rally
どんなゲーム?
- カジュアルなグラフィックの中、心地よい音楽を聴きながら見下ろし視点でラリーアタックをするドライビングゲーム。
- 見た目に反して車の制動は難しい。アクセル全開ではとても曲がれないので、しっかりブレーキングしてコーナーに入る必要がある。
- ラリーカーの歴史を辿っていくキャンペーン。時代が進むごとに車の性能が上がっていくのを体感できる。車種毎に違うエキゾーストノートに拘りを感じる。
- キャンペーンはただひたすらに時代を変えてランダム生成されるラリーツアーをするだけのため、プレイを続けていると飽きが出てくる。
art of rally、クラスが進むと車の止まる進む曲がるの性能が明らかに良くなってこれが歴史を追体験するということか…という感じに。ケニアステージやってたらラリーらしい渡河があったよ。 pic.twitter.com/vHTW5yQECK
— 吾和井(あわい) (@away_san) 2021年8月18日
ストイックに、あったかも知れないラリー世界にて。
グループBラリーカーをご存知だろうか。「公道を走るF1」と言われ、圧倒的に緩い規制の中、開発者が持てる狂気を注ぎ込んだモンスターカーがひしめき合ったクラス。
モアパワー、モアスピードの極致となり、タイヤは常に空転して真っ直ぐに走らず、ギリギリまで軽量化しきったボディは事故が起きた際には、フルスロットルで乗員をあの世へと連れ去っていく。
命を燃やし尽くす美しさを競い合うような、速度と狂気と死に溢れた興奮のレース、それがグループBだ。
時には観客席まで突っ込む死亡事故があまりにも連続したため、最終的にこのグループBは時代の徒花と消えていく。しかし、このart of rallyはそんなグループBがそのまま存続した世界。そして市販車の改造というルールを見直し、専用設計のレース車がしのぎを削る予定であった幻のグループSが存在している世界だ。
本作の世界の外見はとてもカジュアルだ。実写と見間違えるようなグラフィック進化が進み、プロドライバーも唸るような操作感を誇る大作レースゲームとは違う道を行く。
だが、カジュアルながら、日本ステージで桃色の雪が降りしきるとばかりに表現されている桜は忙しい走行中に見ても目を奪う出来だ。
レース中にかかるBGMも、ハウステクノ的でありながらアンビエントな穏やかがあり、猛然とアクセルを踏みつけさせるようなノリの良いロックが流れがちなレースゲームのイメージから少々外れている。それでありながら、カジュアルで丸みのある景色の中を走りながら聞く音楽としてはなんだか正解である感じがしてくる。調和が取れているということだろう。
豪華ではないが、目指す方向としての完成度は高く、ゲームの外面の出来は良いと言える。
トップビューの視点で操作する車の挙動は、外見から感じるカジュアルさとはだいぶ離れている。とにかく曲がりにくく滑りやすい。マリオカート的な操作感を想像すると面食らうだろう。シミュレーターに寄せた操作感である。アクセル全開でコーナーに突っ込もうものならあなたの操る車はあっという間に木立を抜けて崖下へと消えていく。幸い、このゲームでは爆発炎上の悲劇は無く、5秒間のタイムペナルティを受けてコースに復帰することとなる。
触り初めは難しさのある操作感だが、レースを繰り返していくと徐々にコツが掴めてくる。コーナーの前ではしっかりブレーキング、アクセルを適度に開けながら車の姿勢制御、そしてコーナーの出口にフロントを向けられたら、全開のダッシュをかけて少しでもタイムを縮める。
ストイックにひたすらこれを繰り返していく。ミニマップやセガラリーのようなコーナー標識はないため、トップビューを活かしてコースの先を見るか、あるいはコースを覚えていくしかない。コ・ドライバーは不在なのだろうか。
単調と言われれば否定はできないが、それでもこの車の制御に苦戦するというのはなかなか面白い。毎回上手くいくというわけにはいかないからこそ、理想のライン取りでコーナリング出来たときの達成感は心地が良い。
レース形式は全てがタイムアタックなので自車にひたすら集中することとなる。筆者は難易度ノーマルで進めていたが、大きなクラッシュや必要以上の減速を繰り返さなければ1位を狙えるといった難易度設定に感じた。
ラリーツアーは複数のレースで構成されているが、レースの出来に納得出来なかった場合、リトライをすることができる。しかし、ツアー毎にリトライ回数の目標があり、それ以下で終えるとカラーリングが解禁される仕様であるため、無制限に使うわけにはいかない。
レースゲームでのやり直しシステムについては我々は『Forza Horizon』や『Dirt』でのリワインドを経験してしまっているため、レースごとやり直しとなるのは若干煩雑なように思えてしまった。
キャリアモードではラリーの歴史を1年ずつ辿っていき、進行状況によって新たな車が解禁されている。車を変えれば当然操作性が変わる。エンジン音への拘りも強烈だ。アクセルを踏むと奏でられるエキゾーストノートはスカッとした心地よさがある。こういった部分からは作者のラリー愛を感じられる。
エンジン音がよい pic.twitter.com/YgaBlUUQW9
— 吾和井(あわい) (@away_san) 2021年8月17日
といっても、ひたすらにレースがランダムに組み合わせられたラリーツアーを繰り返していくのは飽きとの戦いとなる。ラリーを繰り返すため自然とレースは全てタイムアタックとなり、ライバル車との競り合いがないのもストイックさを強めている部分がある。
クリエイターが目指している方向では高い完成度を出しているが、自身がその方向に完全にマッチするプレイヤーであるかはやや難しい部分があるゲームという印象だった。