淡々きゅうきゅう

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『キャストアウェイ』遭難する前に歯医者に行こう

トムハンクス演じるフェデックスのエンジニアが墜落事故に巻き込まれ、無人島で遭難サバイバルをするという映画。

 

80分ほどが遭難シーン。当然島にいるのはトムハンクス1人。それでも画面を持たせてしまうトムハンクスは凄いし、こういうことができるのも映画の凄さだろう。

当然、会話シーンなんてものも作れないから台詞も少ない、音楽だってかからない。(会話シーンについては「親友」のおかげで多少は出てくるが)

 

無人島で創意工夫し、痛々しいシーンも多々ありながらもサバイバル生活を送る様子は多少のハラハラと驚きを持ちながら目を離せない。

なにより痛々しいのが歯痛のシーンだ。虫歯しかり歯のトラブルほど忌々しいものは無い。現代文明社会で生きていても、歯が痛んで生活が苦痛にまみれるハメになるのだから。

書いていて、今年の正月に奥歯の詰め物が割れやがったのを思い出した。当然、歯医者なんてしばらくやっていなかった。おおよそ歯が割れるのに最悪のタイミングだ。この映画しかり、正月の思い出しかり、歯というものはどうしようもない時を狙ってぐずり始めるものだ。

 

話を戻すが、この作品でも歯痛の苦しみは強烈だ。遭難前から患っていた虫歯がサバイバルの限界生活の中で大爆発。メシが食えないどころか、ゆっくり横になることも出来ない有様となる。

しかし当然そこは無人島。歯医者はいない。待ったところで開くこともない。しかし歯は痛む。原因を取り除かない限り痛みは続く。ここから続くシーンはなんとなく感覚に想像が付くあたり、強烈だった。

 

ここまでサバイバルの話を書いてなんだが、この作品は単なる壮絶サバイバルムービーではない。

1分1秒を惜しむ巨大物流であるフェデックスで働く中で、主人公の口癖はこうだ。

「我々は時間に縛られて生きている。時に背を向けてはならない」

現代文明社会の中では、ワーカーホリックの超効率主義故の言葉だろう。だが、彼が無人島へ漂着し、社会から隔絶してもこの言葉は生きている。我々は時間に縛られて生きているし、当然背を向けることは出来ない。

この映画には、遭難サバイバルの「先」がある。主人公が島で過ごしていた時間は、他の全人類もまた同じく縛られていた時間なのだ。そして当然、彼もまたその時間と向き合うことを避けることは出来ない。

 

では、この映画は時間の厳然さ、冷酷さに打ちのめされる映画なのか。

そんなこともない。我々は時間に縛られている。時間は常に進んでいる。それは、明日には潮の流れで何かが流れ着いてくるかも知れないし、変わっていく未来が次々やってくるという希望の法則でもあるのだ。