レースを見る、という祈り~お前ラスト直線でスキル一発出れば勝ったやんけ~
愛は祈りだ。僕は祈る。僕の好きな人たちに皆そろって幸せになってほしい。それぞれの願いを叶えてほしい。温かい場所で、あるいは涼しい場所で、とにかく心地よい場所で、それぞれの好きな人たちに囲まれて楽しく暮らしてほしい。
――『好き好き大好き超愛してる。』
発走の十分前、馬券購入が締め切られる。購入までに検討することは無数にあった。
前走レースの成績、今日の馬場と脚質、騎手の傾向、パドックでの調子……全ては締め切りと共に取り返しが付かなくなり、買わなかった可能性は「たられば」となる。
ゲートが開く瞬間、軸馬を祈るような目で見る。頼むからすんなりと出てくれ……祈りは無力であり、2019年のフェブラリーS ノンコノユメは見事に出遅れた。
好位で競馬していても安心をするのはまだ早い。最後の直線が全てを決める。
縋るような目で見つめ続けるしかない。
馬の神様は人の祈りなんて聞き入れちゃくれない。人の気持ちが分からない。たぶん馬だから。
2019年天皇賞(秋)、サートゥルナーリアは俺たちの切望に足を取られたかのように失速していった。
そんな思いをしながらレースを見つめてしまうのは、ゲートが開く度に新しいドラマが始まるからだ。
2014年桜花賞、一番人気のハープスターは託された多くの馬券(そしてのっぴきならない金)に背中を押されるように猛烈な末脚を決め、ゴール板前での差し合いを制した。
贔屓の差し馬がラスト400で他の馬とは違う加速を始めたとき、馬の頭をした神に感謝する。祈りの言葉が口から漏れる。
「行け!差せ!そのままだ!進め!」
ウマ娘のプレイ中、レース画面で何をしているのか。祈りである。既に能力値はいじれず、スキルを取り直すことも出来ない。
ゲートが開く瞬間、右上に出遅れの表示が出ないことを祈る。中盤のコースの取り合い、馬群に飲まれないことを祈る。そして最終コーナーからの立ち上がり、前が空きスキルが存分に発動されることを祈る。愛は祈りだ、僕は祈る。
祈りに答えたウマ娘が、先頭でコーナーから立ち上がり悠々と直線を駆け抜ける。残り200を切り猛烈なスパートが辛くも先頭を捉えゴールする。そこに生まれる興奮は、ドラマは競馬とウマ娘を繋ぐものとなる。
愛が足りなかった結果、URA決勝まで行ったナイスネイチャがラスト直線で何もスキルを使わず、何度目かの惜敗を喫したのでこの文章が生まれました。